金沢を満喫する21章

第2章

作家たちの愛した金澤

金沢日和

金沢で生まれ育った三文豪、泉鏡花、徳田秋声、室生犀星をはじめ、
金沢にゆかりの深い多くの作家たち。彼らを魅了した風景、佇まいなど
作家たちの描いた金沢を紹介します。

カメラマン

犀川・浅野川

 男川、女川と称される通り、犀川と浅野川は全く異なった個性を持つ。その個性を反映して、各々の文化を築き上げてきた2つの川は多くの作家たちを魅了してきた。
 犀川を描いた作家と言えば、室生犀星が挙げられる。彼の筆名は犀川に由来し、その川から不屈の精神を汲み上げ、「星」の字に象徴されるようにきっと偉くなるぞという願いが込められている。自伝的要素の強い作品『性に眼覚める頃』は、犀川で汲んだ清水でお茶を点てる場面から物語が始まる。
 犀川のみならず、川に架かる鉄の橋「犀川大橋」も作品に登場することの多い場所のひとつだ。犀川に似て、どこか武骨で男性的な匂いが漂うこの橋は、高橋治や井上靖など幾人もの作家が描いている。


 浅野川は五木寛之、村松友視、唯川恵らの作品の中で語られているが、浅野川の風情を描き出した代表的な作家と言えば、何といっても泉鏡花である。劇化され「滝の白糸」の外題で、明治時代から今日まで上演されている『義血侠血』をはじめ、鏡花文学の多くは浅野川周辺が舞台となっている。鏡花の生きた明治時代、天神橋から浅野川大橋の辺りにかけて、夏などは見せ物小屋が立ち並び、なかでも評判が高かったのが、太夫、滝の白糸の水芸であったという。
 浅野川沿いの、ひがし茶屋街や主計町も小説の舞台として欠かせない場所である。五木寛之の『金沢望郷歌』では、お茶屋や料理屋がひっそりと佇む主計町の家並み、暗闇坂から浅野川に抜ける路地などが描かれている。金沢独特の「木虫籠」と呼ばれる木格子や、その一つひとつを彩る紅殻の色模様。それは、しっとりとした情緒が漂う花街ならではの風景である。


犀川大橋/石川県金沢市千日町
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ひがし茶屋街/石川県金沢市東山
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上/「男川」と呼ばれる犀川に架かる「犀川大橋」。四高生に「オンケル橋」の愛称で呼ばれていた。中・下/浅野川その穏やかな川の流れから、「女川」と呼ばれる浅野川。情緒豊かな風景に、常盤橋、天神橋、梅ノ橋、浅野川大橋、中の橋、と趣の異なる五つの橋が彩りを添えている。川の流れの途中には、紅殻格子の連なるひがし茶屋街があり、往時の面影を今に伝えている。
犀川大橋
浅野川
ひがし茶屋街
兼六園

 日本三名園のひとつである兼六園も、数々の作品に登場する場所だ。三島由紀夫の小説『美しい星』では、自らを宇宙人と信じる一家の娘で、金星を故郷とする暁子が、文通で知り合った金星人と称する男、竹宮と兼六園を訪れる。霞ヶ池のほとりで過ごす至福のひととき。彼女は穏やかな陶酔に身を委ねる。

兼六園
兼六園

金沢市の中心部に位置する『兼六園』。桜、新緑、紅葉、雪景色と四季折々の美しさが堪能できるが、雪吊りの施された冬の風景は格別。なかでも唐崎松の雪吊りは見事なものである。また、霞ヶ池を背景にした徽軫灯籠と虹橋は『兼六園』の代表的な風景だ。

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石川県金沢市丸の内1-1 TEL.076-234-3800 営/3月1日~10月15日7:00~18:00、10月16日~2月末日8:00~17:00 (退園時間) 休/なし P/有料Pあり 料金/大人310円、6歳以上18歳未満100円 http://www.pref.ishikawa.jp/siro-niwa/kenrokuen/

W坂

 金沢は坂の多い町である。その坂の一つひとつに名前が付けられ、様々な物語が伝えられている。井上靖の『北の海』や高橋治の『名もなき道を』など、旧制第四高等学校を題材とした小説では、主人公たちの下宿があった寺町台から四高に通う途中にある通称「W坂」が登場する。その形から四高生が名付けたといわれる坂の上からは、淙々たる犀川の流れを見下ろすことができる。

W坂

犀川に架かる桜橋の程近くにあるW坂。その名の通り、Wのかたちをした階段の坂道だ。


石川県金沢市寺町
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旧制第四高等学校

 明治20年、東京、京都に続き、仙台と並んで金沢に開校された旧制第四高等学校。その校舎は、赤煉瓦の壁に瓦屋根、アーチ状の窓といった何ともモダンな造りで、国の重要文化財に指定されている。
 四高は多くの文学者を輩出してきたことでも知られているが、学生時代を四高で過ごした作家たちは、その懐かしき日々をモチーフに、数多くの作品を執筆している。
 井上靖の『北の海』、高橋治の『名もなき道を』、中野重治の『歌のわかれ』など「四高もの」と称されるこれらの作品には、学び、悩み、青春を謳歌する若者たちの姿と、彼らを取り巻く様々な人間関係が如実に描かれている。そこからは、開校以来、四高生を誇りとし、あたたかい目で見守っていた金沢市民の気風が伝わってくる。

旧制第四高等学校
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石川四高記念文化交流館
石川県金沢市広坂2-2-5 TEL.076-262-5464 営/9:00~17:00(入館は16:30まで) 休/年末年始(12/29~1/3) 入場料/一般360円、大学生290円、高校生以下無料 http://www.pref.ishikawa.jp/shiko-kinbun/

雨宝院

 犀川大橋の袂に佇む『雨宝院』。ここは、室生犀星が養子となり、少年時代を過ごした寺である。現在は表の道幅が広くなり、寺の境内も昔の面影を失っているが、かつてはもっと広く、大きな栂の木が見られ、庭の石段から犀川の河原へ降りることができたという。
 この寺で暮らした幼き時を、犀星は自らの小説の中に織り込んでいる。なかでも『性に眼覚める頃』には、登場人物が住んでいる町の名が明記されており、この界隈から片町、兼六園にかけての当時の様子を垣間見ることができる。

雨宝院
雨宝院

小説『性に眼覚める頃』に登場した賽銭箱が、今なお残っている。

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石川県金沢市千日町1-3 TEL.076-241-5646 営/9:00~17:00 休/本尊祈願会の縁日(10日) 料金/大人 300円、中学生200円

妙立寺

 吉田健一の小説『金沢』では、犀川のほとりに主人公・内山が居を構え、心のおもむくままに町のあちらこちらに出掛けていく。
 寺町の高台に佇む『妙立寺』も内山が訪れた場所のひとつである。とある山水画を見るために訪れたその寺は、「忍者寺」の別名の通り至る所にからくりが隠されており、巡っているうちに自分がどこにいるのか、わからなくなってしまう。内山もそのひとりだったが、やがて彼は現実の世界から目の前の山水画の世界へと迷い込む。

妙立寺
妙立寺

「忍者寺」という別名を持つ『妙立寺』。富士山や月、雲がかたどられ、部屋の中にいながら、美しい風景が楽しめるという趣向が凝らさた部屋もあり、さらにはどんでん返しの壁や武者隠しの襖、落とし穴に変わる賽銭箱など、至る所に仕掛けがある。

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石川県金沢市野町1-2-12 TEL.076-241-0888 営/9:00~16:30(冬期~16:00) 休/1月1日、法要日 P/有料Pあり 料金/大人(中学生以上)800円、小学生600円、未就学児入場不可 http://www.myouryuji.or.jp

尾山神社

 色鮮やかなギヤマンが一際目を引く『尾山神社』。この建物は、室生犀星や五木寛之も描いているが、三島由紀夫の小説『美しい星』の中にも登場する。
 自分を金星人だと信じる娘、暁子と、同じく自分も金星人だと語る竹宮。二人は神社を訪れ、奇抜な意匠が施された神門を打ち仰ぐ。窓にはめ込まれたギヤマンを眺めながら、竹宮は、この建物をつくった人物は円盤と交信しようとしていたのかもしれないと暁子に語る。その言葉は美しい神門の姿とともに、暁子の胸に、また読者の胸に、すんなりと溶け込んでいく。

尾山神社
尾山神社

ギヤマンがはめ込まれた『尾山神社』の神門。完成当初はギヤマンの部分に御神灯をともし、金石港の灯台の代わりにもなっていたという。

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石川県金沢市尾山町11-1 TEL.076-231-7210 営/9:00~17:00 休/なし P/10台 http://www.oyama-jinja.or.jp/

作家たちの人生や金沢の変遷を見守り続けてきた数々の佇まい。物語の中で出逢うそれらの姿からは、作家たちの、そして金沢という町の生き様を感じ取ることができる

金沢を満喫する21章

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