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【香土(カグツチ)】地産地消の先に見据える「みんなの畑」のある地域づくり

2024年4月18日(木) | テーマ/エトセトラ

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石川県立大学のほど近く、野々市(ののいち)市の田園地帯の一角に店舗を構える『香土(カグツチ)』。NPO法人アグリファイブが運営し、「おいしい野菜と暮らす」がコンセプト。農家の納屋をセルフリノベーションしたというその店内を覗くと、県内産の新鮮な農産物や加工品を中心とした物販スペースがまず目に入る。その隣にはキッチンを設えた飲食スペースがあり、週2日の弁当販売に加え、毎週月曜日にはランチを提供しているという。

「物件を見に来たときは山積みの荷物で足の踏み場もないほどだったけど、いまの完成した姿が見えたんよ。ここしかないとすぐに決めたわ」

ぐるりと店内を見回してそう話すのは、香土のオーナーでアグリファイブ代表の洲崎邦郎さん。3年間ほど店を構えた金沢を離れ、この地へ移転したのは2021年。決め手は安心・安全で新鮮な野菜を求める若いファミリー層の存在だった。「野菜を配達にいくと子どもがママの後ろで『やちゃい、やちゃい』と喜んでくれて、それを見たらたまらんよ」と洲崎さんは顔をほころばせる。

洲崎さんがホテルマンのキャリアを捨てて、農業の世界に飛び込んだのは50歳を過ぎてから。縁があって能登島で農業を始めることになったが、その当初から洲崎さんにはある目算があった。

「私は異業種参入組、ましてや営業マンでしたから。農業従事者であることは前提として、売ることに主眼を置いた農家になれないかと考えていました」

ロメインレタスにズッキーニ、ポロネギ、そして丸ナスのフローレンスパープル。より付加価値の高い西洋野菜をつくっては、金沢のホテルや飲食店に売り込んだ。「30kgの米袋に詰めておけば農協が集荷してくれるのに」と言われた米は、消費者が扱いやすい10kgに小分けして、農協に卸す倍の値段で自ら売りさばいた。

いつしか周囲の農家の見る目も変わり、「お前が後継者だ」と認められるほどに。はじめは素直に喜んでいたが、何度も言われるうちに次第に違和感を覚えるようになったという。

「自分らの子どもは『農家は儲からないから』と継がせようとしない現実に腹が立った。野球でたとえれば私はリリーフ。つなぎのためにいる。ならばあんたらの子どもや孫が農業をできるような環境を作っちゃる、と大見得を切ったんです」

そうした思いを潜在的に抱えていた洲崎さんは、都内で開催されたマルシェイベントに参加した際、同郷の出店者の姿を見てはたとひらめいた。

「これまで自分のことばかり考えていたが、後ろを振り返れば同じことを考えている農家がいる。彼らと手を組めばもっと消費者に喜んでもらえるのではないか」

県内の志ある生産者をネットワークし、消費者とつなぐ。NPO法人アグリファイブはそうした理念をもとに2016年4月4日に設立された。4月4日は二十四節気で「清明(せいめい)」と呼ばれる、草木が萌え、万物がいきいきと輝く日。洲崎さんが込めた願いは、のちに香土として結実することとなった。

しかしそこで終わらないのが洲崎さんの物語。今度は「能登半島に地球が喜ぶ農業の一大生産拠点を」と、2023年にFarmer’s Village Noto構想を立ち上げたのだ。

つくりたいのは観光農園でも市民農園でもなく、あくまで生産拠点。専従の農家が農園を管理運営する一方、クラウドファンディングで「元祖村民」を募り、リターンとして一緒に農作業や収穫などが楽しめる「みんなの畑」の仕組みを考えた。目標金額の300万円は見事に達成。その7割が県内在住者、さらにその半数は金沢や野々市、つまり香土のお客さんが支えてくれた。

こうして同年11月、晴れてFarmer’s Village Notoは珠洲市に開村。2030年末までに200ha規模への拡大を目指したこのプロジェクトは、しかしそのわずか2ヶ月後に頓挫することになる。理由は言うまでもなく、2024年の元日に能登地方を襲った未曾有の震災にあった。

幸い人的被害は免れたが、地域の被害は相当なもので、とても農業を続けられる状況ではない。ひとまず珠洲に移住したばかりの農家を野々市に呼び戻し、自身は炊き出しのため、震災発生の翌週から毎週被災地に通い詰めた。

「村民のみなさんには深くお詫びをして、野々市に『みんなの畑』をつくろうと決めました。悔しいけれど、いまは農業の火を絶やさぬことが大切。珠洲の農園が復活するその日に向けて、野々市で交流を深めてファンを増やしていく。香土の役割も、これから進化することになるかもしらんね」

元日から奔走し続けた洲崎さんの前に、気づけば清明の季節が迫っていた。「草木が萌える日やからね。気持ちを切り替えてやらんと」。自分に言い聞かせるように、洲崎さんはそう言葉に力を込めた。


■香土(カグツチ)
住所/石川県野々市市中林 3-116
電話番号/076-254-5542
定休日/火曜

公式サイト  https://kagutsuchi.com/
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※掲載されている情報は、2024年4月30日以前に取材した内容です。時間の経過により実際と異なる場合があります。

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