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【農援ラボ|ぶるベジ】トマトの付加価値を高め、売り方の工夫で需要をつかむ

2024年5月2日(木) | テーマ/エトセトラ

名刺に印刷された「ぶるベジ SINCE 2020」の文字。ベジタブルの「ブル」に「ベジ」かと思いきや、「いや、子どもの頃から僕のあだ名が“ぶる”で。それで『ぶるベジ』なんですよ」とキャップを被った男性は、くしゃっとした笑顔を見せた。

“ぶるさん”こと中川智晴さんは石川県白山市の出身。かつてはエンジニアとして一年の多くを海外で過ごし、長期で滞在した米オレゴン州のポートランドでは仕事の傍らスケートボードやスノーボードにも明け暮れた。はたからは充実この上ない人生かに見えたが、「もっとやりがいを感じる好きな仕事で食っていきたい!」と一念発起。地元に戻り、門外漢の農業の道を志した。

エンジニアから農家、そしてサラリーマンから個人事業主へ。正反対の選択には浮き沈みの激しい前の業界への不安もあったと話すが、さりとて農業が楽なはずもない。ぶるベジの拠点は市内にある20a(約2000 m²)ほどのハウス農園。ひとりで手がけるには限界に近い面積だったが、土地と施設を貸与してくれた地主から「これくらい収穫せんと食っていけんぞ」と言われて腹をくくった。

ぶるベジの初収穫は2021年。独立前にお世話になったトマト農園での経験を引き継ぎ、主役はトマトだ。大玉、中玉、フルーツトマトを取引先の需要に応じて生産し、そのほかにきゅうりや冬季には葉物野菜も栽培する。トマトの魅力は何と言っても国内消費量、消費額ともに大きく安定的な収益が見込めること。そして「付加価値をつけられることも強み」と中川さんは言い添えた。

「トマトって野菜の中では嗜好品に近い存在なんです。たとえば形の美しさだったり糖度だったり、フルーツに似て差別化しやすい。葉物は必ずしも美味しいから売れるというわけではなくて、鮮度がすべてというところがある。でもトマトは売り方や作り方を工夫することでちゃんと勝負ができる野菜なんです」

ぶるベジで生産されるトマトは売上の約6割が直売。一方でJA出荷は約2割と少なめだが、そこにもトマトに対する中川さんの姿勢が透けて見える。JAに出荷する野菜は流通の関係で店頭に並ぶまでに日数を要するため、トマトであればまだ実が青い状態で収穫する必要がある。運送時の歩留まりや棚持ち(売り場に並んでからの日持ち)のよさを考えれば合理的だが、その仕組みでは中川さんがトマトに期待する美味しさや栄養価の高さといった魅力を十分に届けられないのだ。

「それにJA出荷は収量がすべて。そのためには設備投資や人件費、そして何よりひとつの苗からより多くのトマトを収穫するための卓越した栽培技術が求められます。すべて販売委託で在庫リスクを抱える心配がないのは直売にはないメリットですが、多品目を時期をずらして栽培することでリスク回避したいと考える、僕のような生産者にとってはハードルの高い収益モデルなんです」

少量・高付加価値型の商品を高単価でダイレクトに消費者に届ける。中川さんのような個人生産者にとって、その判断は夢や理想である以前に極めて現実的な経営戦略の結果でもあるのだ。

栽培技術は経験がものをいうが、売り方の工夫はすぐにでも実践できる。それは商品パッケージや袋詰の美しさといったプレゼンテーションから、消費者とコミュニケーションを図る対面販売までさまざまだ。

「マルシェイベントには積極的に出店しています。お客さんと対面で接することができる貴重な機会ですし、客層や売り方の違いでこれだけ需要が変わるのかと勉強にもなります。実際、マルシェでは高単価なフルーツトマトがよく売れるんですよ」

現在は夫人が配送や販売をサポートし、JA系列の直売所のほかに地元のむつぼしマーケットとの取引を開拓するなどさらなる販路拡大にも意欲的。「他の生産者がしないことをやらないと小さな農家はこれからの時代、きっと生き残れないですから」と言葉に力を込めるが、その表情はどこか晴れやかだ。

「ずっとひとつのことを同じようにやり続けるより、いろいろとチャレンジするのが性に合っているんでしょうね。昨今の夏だって異常な暑さだと農家は口を揃えて言いますが、みんながピンチなら逆に僕にとってはチャンスだろうと気持ちを切り替えてやっていますよ」

中川さんの視線の先にある畝には、どの生産者よりもいち早く直売所の棚に並ばせることを目指して作付けしたトマトが青々と実る。「今年は3月が寒かったから生育がやや遅れ気味なんですけどね」と中川さん。自然を相手に試行錯誤を繰り返し、ぶるベジの4回目の収穫シーズンがまもなく始まろうとしている。


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※掲載されている情報は、2024年5月1日以前に取材した内容です。時間の経過により実際と異なる場合があります。

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