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【農援ラボ|ハイネファーム】きくらげ栽培から学ぶ、個人農家に求められるオールラウンド型の仕事術

2024年7月8日(月) | テーマ/エトセトラ

農援ラボ
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北陸の豊かな暮らしを農と食から考えるサイト『農援ラボ』です。 野菜作りにこだわりを持っていたり、珍しい生産方法をされていたりと、北陸で何かと話題の農家さんを紹介します。 北陸の注目農家についてはもっと知りたい方は、【こちらをチェック】

「納豆、食べてませんよね?」

唐突に振られた質問に一瞬戸惑う。ハウスの入口で靴を履き替えて奥へと進むと、整然と並んだ多段のスチールラックに黒々としたきくらげがずらりと並ぶ。言うまでもなく、きのこは菌類。納豆菌は強く、きのこの菌糸が伸びるより速く増殖するため、きのこの成長を阻害してしまうのだという。

石川県かほく市にあるハイネファーム。代表の中村広美さんと、夫であり副代表を務める達治さんによる家族経営のきのこ農家だ。「変わった屋号だからすぐに覚えてもらえるの」と広美さん。「ハイネ」は飼い猫の名前から拝借したというから、孝行猫もいたものである。

中村さん夫妻はともに市内のIT企業に勤務していた。子どもを大学卒業まで育て上げ、第二の人生にと思い至ったのが農業だった。ハウスで何かできないかと考え、食材として好きだったきのこに白羽の矢が立った。

きのこ栽培は厳密には農業ではなく林業に属する。食物を生産するという意味では農業と同じだが、その工程は独特だ。栽培方法は「原木」と「菌床」とに大別され、樹木に種菌を直接植え付ける原木栽培に対し、菌床栽培では「おがくず」や「ふすま」、「米ぬか」などの栄養分を混ぜ固めた菌床に種菌を植え付け、栽培する。原木と比べ収穫の時期や量をコントロールしやすく、安定して栽培できるのがメリットだ。

「菌床栽培に決まり、あとは何を栽培するか。大手が参入しておらず、競合の少ないきのこは?と考えて、『きくらげ』なら、しいたけのように規格があるわけでもなく、自分たちで自由にできるだろうと思い至りました」

自宅裏の傾斜地を整地し、約50坪のハウスを建設。エアコン設備は高コストのため導入を見送り、夏場のみきくらげを栽培し、栽培に適さない冬場はひらたけを育てることに。群馬県桐生市にある種菌メーカーの研修で栽培の基礎を学び、2020年、400床から中村夫妻のきくらげ栽培が始まった。

「きくらげ栽培の適温は18度から25度くらい。夏場のハウスはピーク時には40度を超えるので、暑さ対策はかなり重要です」と達治さん。ハウスの栽培スペースには遮光ネットを幾重にも重ね、室温を検知してファンが自動で作動するシステムも導入した。

そして湿度対策も栽培の要だ。菌床が置かれたラックの上面にはスプリンクラーが設置され、設定した時間になると自動で散水する。適切な湿度は50%から90%。湿気の多い環境を好むきのこの中でも、きくらげは断トツに水を消費する。

「環境にもよりますが、子実体(きのこ)が発生してから収穫できるようになるまでは約2週間。しかし摘み取れば終わりではなく、胞子を洗い流し、おが粉が付着した硬い石づきもひとつずつ除去しないと商品になりません。何しろきくらげは手間がかかる。国産のきくらげってあまり聞かないでしょう? 理由は栽培が面倒だからですよ」

きくらげ栽培を専業とするにはもうひとつ大きな問題がある。俗に言う「300円の壁」だ。生産コストに関わらず、値付けが300円を超えたきのこは消費者が購入を敬遠してしまうのだという。その壁を超えられるのは一部のブランドきのこのみ。その点、きくらげはいまだ認知度の向上から取り組む段階というのが、ふたりの実感だ。

きくらげは低カロリーながら「食べる漢方」と呼ばれるほどに高栄養な食材。歯ざわりもよく、無味でもあるので意外と多くの料理にマッチする。ハイネファームでは直売所やスーパーマーケットでの販売と並行し、「灰猫のきくらげカレー」といったオリジナル商品の開発にも着手。さらには「食べる」という固定観念すら取り払い、きくらげを使った化粧品「AUROL」まで開発してしまった。

通常の黒いきくらげが、1/10000の確率で突然変異した希少な「白いきくらげ」。「AUROL」はこの「白いきくらげ」の保湿成分に着目し、完全な白になりきれず、市場に出せずに廃棄せざるを得なかったものを活用した。アイデアひとつでアップサイクル(創造的再利用)した好例といえるだろう。

「農家になって痛感したのは、オールラウンダーとしての能力が求められるということ。いいものを作っただけで売れはしない。販路を開拓するには営業力が必須です。もし作ることに専念したいのであれば、農協経由で市場に卸せばいい。その代わり言い値で売ることはできません。どちらがいいか、これから農業を志す人はよく考えた方がいいでしょうね」

会社員時代に技術職から営業職まで幅広い業務経験があった達治さんは、「まさか農家になってその経験が生きるとは」と笑う。苦労は多いと吐露するが、きくらげの魅力を誰よりも知るふたりだからこそ、そのポテンシャルに懸ける思いは揺るぎない。


■ハイネファーム
住所/石川県かほく市横山レ401-3
公式サイト https://www.heine-farm.com/
オンライン通販  https://heine-farm.stores.jp/

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※掲載されている情報は、2024年7月8日以前に取材した内容です。時間の経過により実際と異なる場合があります。

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