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【農援ラボ|エコファーム奥野】農法にこだわるのではなく、自分たちがつくりたい作物にこだわる

2025年3月10日(月) | テーマ/エトセトラ

農援ラボ
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北陸の豊かな暮らしを農と食から考えるサイト『農援ラボ』です。 野菜作りにこだわりを持っていたり、珍しい生産方法をされていたりと、北陸で何かと話題の農家さんを紹介します。 北陸の注目農家についてはもっと知りたい方はこちら。
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ハンググライダーの選手として世界の空を飛び回っていた奥野誠さん(写真左)。昭和56年(1981)に獅子吼高原にハンググライダースクールを発足させるため、鶴来町(現白山市)にやってきた。その縁で自然の中でくらしたいという夫婦の思いから、この地で農業を志すようになった。

生業として農業をしていくためには、付加価値が必要だと考えた奥野さんは、はじめから無農薬栽培を目指す。いきなり難易度の高い農法を選択することにしたわけだが、持ち前の探究心の強さから本を読み漁り、全国を回りながら、自然農法などの著書を出す著名な農家を訪ね歩いて教えを乞うなどして、無農薬栽培の知識を吸収していった。

いざ、農業を始めようと思ってみても、ツテもなくて農地を借りることすらままならず、ようやく借りられた荒れた農地で作物をつくり始め、やっと収穫できると思ったら、今度は作物を全部猿に食べられてしまったという、前途多難を感じさせるスタートとなった。

農薬や化学肥料に頼らない農業を続けていくうち、徐々に作柄が悪くなった。窮地に立たされていたとき、無農薬栽培に詳しい方から、「土の中で微生物(バクテリア)が栄養分をつくる様子を顕微鏡で見てみるといい」と言われたそう。実際に見てみると、未分解の有機物が多く、それを分解するためには糖分解菌が必要だということがわかった。以来、土の中を観察し、土壌に生息するバクテリアのバランスにも気を遣うように。そして顕微鏡で見るのは土の中だけにとどまらず、できた野菜の細胞や樹液までにも及ぶ。

「お客さんからはよく、うちの野菜は味が濃いとか、日持ちするとか言われます。その違いがどうなっているのかを知ろうと思い、顕微鏡で見くらべると、うちの野菜は細胞がきれいに整い、細胞壁がしっかりしていることがわかりました」と誠さん。顕微鏡を覗けば細胞から自分たちがつくりたい野菜の姿を知ることができ、そのために何をすればいいか、そして何をしてはいけないのがわかるそうだ。元気な細胞の野菜をつくるためには、水の分子構造を細かくして吸いやすくさせる、そこまで気を配っているのだ。

有機栽培でもバランスが狂えばおかしなことになってしまうことを、身をもって知った奥野さん。「有機とか無農薬とか、農法ではなく、どんな野菜をつくるかということが大事で、そのためにもできた野菜の状況を自覚する必要があります」と強調する。
「自宅前の無人販売所で野菜を売っていた頃に、買った人が訪ねてきて、『あんたの野菜、うまかった。これはどうやってつくっとるんや?』と聞かれ、畑を見せて説明したところ、『こりゃ金にならんな』と言われてしまいました(笑)。でも、その方は金沢の流通会社の人で、その後、その方の紹介で地元のスーパーでも扱ってもらえるようになったんです」
スーパーで買ってくれた人は転勤族が多く、その後、転勤先でも購入したいと言ってもらえて直接発送するように。その繰り返しによって、エコファーム奥野のファンは全国に増えていった。

6年前からは息子の陽暉(はるき)さんも加わり、スタッフ5名で約4haの田んぼと約1haの畑を耕している。
今の一番の課題は、夏の暑さだという。急激な温暖化の影響でこれまでの考え方が通用しなくなってきていることや、あまりの暑さに屋外での作業ができない日もある。
「ここ3〜4年で環境が激変していて、稼ぎ頭だったトマトも、暑さで着花しなくなり、収穫できる時期も短くなってしまいました」と陽暉さん。

エコファーム奥野では、年間で60〜80種類ほどの野菜のほか、米もつくっている。米の主力品種はイセヒカリとコシヒカリで、その比率は3対1ほど。イセヒカリという米は耳馴染みがないかもしれないが、伊勢神宮の神田で発見された倒伏に強い稲で、知人の農家から「日本を救うお米だ」と言って種籾をわけてもらった。品種登録もされておらず、当初は安価にしかならなかったが、いろいろな人に食べてもらううち、しっかりとした食味の良さが口コミで広がっていった。

なぜ「日本を救う米」なのかという意味はわからないままに、イセヒカリをつくり続けていたが、それがようやく最近わかったという。少し前に米粒が白くなる病気“しらた”がコシヒカリなどに発生したことがあったが、イセヒカリの米粒はきれいなままで、その年は収量も過去で一番の豊作だった。また、昨年はコシヒカリの稲が軒並み倒伏したが、イセヒカリは全く倒れることがなく、その丈夫さを実感させられた。環境の激変も物ともせず、力強く成長するイセヒカリの生命力を生かし、飲んで体の中から健康をめざす「玄米甘糀」も販売を開始。お米の自然な甘さがおいしく、こちらもファンが増えている。

白山の麓で農業をする良さを尋ねると、「水が豊富なこと」と2人は口をそろえる。一年中水を好きなだけ使えることはとても恵まれているという。農薬を使わない田んぼはトンボやカエル、ホタルなど生きものが多く生息し、生物多様性にも富む。

陽暉さんはエコファーム奥野をより多くの人に知ってほしいと、SNSを使った商品紹介やオンラインショップでの販売も手がける。オンラインショップでは、7〜8種類の旬の野菜を詰め合わせた「お野菜ボックス」やお米、「玄米甘糀」も販売している。

「父がやってきたこれまでの技術をしっかり受け継ぎ、その上で加工や新しい別のやり方もやってみたいし、効率化という面も考えていけたらと思っています」と、陽暉さんは将来を考える。
無農薬に加え、少量多品目をつくることはとても手間がかかる。それでも「エコファーム奥野の野菜やお米を食べたい!」と待っている全国のファンの期待に応えるべく、これからも自分たちが胸を張って出荷できるものを追い求めていく。


■エコファーム奥野
住所/石川県白山市若原町ロ259
電話番号/090-3766-6079
公式サイト  https://ecofarmokuno.stores.jp

※掲載されている情報は、2025年3月10日以前に取材した内容です。時間の経過により実際と異なる場合があります。

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