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【農援ラボ|中本農園】年間生産量600tの小松菜を柱に、とうもろこしの高付加価値化で狙うさらなる勝機

2025年5月23日(金) | テーマ/エトセトラ

農援ラボ
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「ちょうどいまが会社員生活と農家生活の折り返し地点くらいなんです」と話すのは、中本農園の中本弘之代表。2009年に就農するまでは映像機器メーカーに勤め、アメリカの子会社にも長く駐在していたという、およそ農業とは縁のない異色のキャリアの持ち主だ。

石川県白山市を拠点とする中本農園は、中本さんの父親によって立ち上げられた。60年近く前に米農家として出発したものの、食の西洋化の時代の到来を見据え、米作りと並行してレタスの露地栽培に着手。間もなくして野菜専業に転換すると、ほうれん草や小松菜のハウス栽培に乗り出し、現在はキャベツやとうもろこし、白菜なども生産している。

露地とハウスを合わせて50haを超える作付面積を誇るが、ユニークなのは6haが和歌山県にあり、冬季限定で小松菜を栽培していること。小松菜は通年で栽培が可能なものの、寒冷な冬は成長が鈍り通常の3倍以上の日数を要してしまう。そこで「ならば温暖な地域で育てればいい」と、先代が関係者を通じて和歌山県の米農家に掛け合い、1993年から休閑期の圃場を活用するようになったのだそうだ。

石川県内の小松菜の産地としては河北潟干拓地が有名だが、実は中本農園の小松菜の年間生産量は石川県産だけで500t、和歌山県産を合わせれば計600tにもなる。これらの数字は河北潟全体の小松菜の生産量を優に上回るが、その事実を知る消費者は少ない。理由はその半分以上が市中に出回らず、大口の取引先である生協へ出荷されるためだ。

生協と取引するためにはその品質はもちろん、農薬の使用や管理、栽培履歴に関する申請などさまざまな条件があり、参入障壁は非常に高い。しかし不安定な市場の相場に左右されることなく、品質や収量の向上のための安定的な投資ができる恩恵は大きいという。

「基本はやはり土作りなので、野菜が育ちやすい環境を整えるため肥料も工夫しています。たとえば魚粉肥料は、全量を市場に出荷していたらコストに合わず導入を見送っているでしょうね」

小松菜の大規模生産や生協との取引の開始など、現在に連なる中本農園の礎を一人で築いた先代は言わば“スーパーマン”。そこで中本さんが事業を継いだ際には属人性が高かった体制を見直し、改めて組織力の強化に努めた。さらに情報の「見える化」にも着手したが、メーカー時代の経験をそのまま活かすのは難しかったと中本さんは打ち明ける。

「業務の効率化を期待してある管理システムを導入したことがありましたが、かえって作業者のデータ入力の手間がかかってしまう結果になってしまって。それに近年は気候の変動要素が本当に多くて生育の予測がますます困難になっているんです」

たとえば小松菜と並ぶ主力農作物であるとうもろこし。7月から8月中旬にかけて収穫するものの、一株ごとの収穫適期はわずか3、4日に限られる。そのため種まきを17回に分割することで一日あたりの収量を調整しているが、猛暑日が続くと一遍に収穫適期を迎えてしまい、出荷の目処が立たないままやむなく廃棄せざるを得なくなってしまうのだという。

あるいは廃棄以上に避けたいのが「出荷できるものがない」という状況だ。小松菜の収穫適期はとうもろこしほどシビアではないが、天候不順によるリスクは依然高い。その対策を問うと、中本さんは「あえてゆっくりと育つ品種を選定している」と意外な答えを用意していた。

「早く育つほうが回転率は上がりますが、うちは生産量が多いので収穫しきれないリスクが高まってしまうんです。あとは予測に基づいた最適な品種だけではなく、収穫時期の前後する品種も混ぜて育てていますね。100%の収穫を前提とするのではなくて、リスクヘッジして期待値の8割くらいの収量になればいいという考え方です」

そうした柔軟な栽培方法を採ることができるのは、小松菜はバラバラの品種であっても区別なく出荷されるから。裏を返せば、品種名を前面に出して売ることができるのがとうもろこしだ。ブランディングのための課題は少なくないが、「品質的にはすでにいいものはできている。甘みの強い品種など、付加価値の高いとうもろこしにはもっとチャンスがある」と中本さんはその伸びしろに期待する。

直販や加工品製造、 SNSでの発信といった多角的な取り組みは「なかなか手が回らない」と現状は保留の考え。ただそれは、“切り札”に頼らずとも成り立つ自力があるということのあらわれでもある。中本さんの柔らかな物腰の先には、半世紀以上に渡って挑戦を続けてきた中本農園の芯の強さが透けて見えるようだった。


■中本農園
住所/石川県白山市中ノ郷町124
電話番号/076-272-1022

※掲載されている情報は、2025年5月23日以前に取材した内容です。時間の経過により実際と異なる場合があります。

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