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【農援ラボ|One】農業の明日のために、「農家らしく」を打ち破る。金沢・才田発のイノベーティブ農集団

2025年7月3日(木) | テーマ/エトセトラ

農援ラボ
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訪れたのは石川県金沢市才田(さいだ)の農事組合法人One本社。通された会議室のテーブルには、筆文字で「四万六千甘」と書かれた、とうもろこしのチラシが束になって置かれていた。「シマンロクセンカンと読むんです」。こちらの疑問を察して、副代表の宮野義隆さんがそう説明してくれた。

その独特なネーミングは、四万六千日(しまんろくせんにち)という観音菩薩の縁日に由来する。市中心部、ひがし茶屋街の近くにある長谷山観音院では、毎年旧暦7月9日の功徳(くどく)日に四万六千日が催され、そこで販売されるご祈祷済みのとうもろこしは、軒先に吊るすことで魔除けや商売繁盛などのご利益があるとされている。そのとうもろこしに、Oneの四万六千甘が採用されているのだ。

「今年は開催日の関係で残念ながらお届けできないのですが、はじめて住職にお話を伺ったときに『地元産のとうもろこしをずっと使いたかった』とおっしゃっていただいたんです」

河北潟干拓地に隣接する才田地区は水稲栽培が盛んな地域。Oneでは当時、米とれんこんを栽培しており、端境(はざかい)期となる夏場に柱となるような農作物を模索していた。そんな折、とうもろこしを生産する農家が市内に存在しないことに目をつけ、観音院にオーダー生産を提案したのだという。

Oneは、宮野さんと兄・一(はじめ)さんの二人で設立した会社だ。兄が継いだ実家の米農家「宮野ファーム」と、宮野さんが営むれんこん農家「みやの蓮農園」を事業統合する形で2013年にOneは誕生したが、そもそもは宮野さんも兄と一緒に家業を手伝っていたのだそうだ。

「二人とも別々の職に就いていたんですが、父親が病気になって人手が足らんからと、兄貴が最初に就農して、それから僕も加わって米作りをやっていたんです。でも、僕はずっとおもんないわとぼやいていて。当時のスキームは自分らでポリシーをもって米を販売するようなものではなく、やりがいを得にくかった。それで意を決して僕だけれんこん農家に転身したんです」

加賀野菜のひとつに数えられるれんこんは河北潟干拓地が主要産地。米農家のような設備投資も必要とせず、何よりれんこんは儲かる。稼ぐ農業。それが宮野さんのモチベーションの拠り所となったのであった。

設立から3年後、兄弟が再び手を取りさらなる飛躍を求めるOneに転機が訪れる。トヨタ自動車が開発した農業IT管理ツール「豊作計画」の導入である。

「稲作ひとつとっても、それまでは各作業の工数もロクに説明できなかった。田植えの時期は例年に従い、稲刈りのタイミングは勘と経験が頼り。稲刈りの日から逆算して田植えや種まきの時期を決める、というロジックじゃないんですよね。これではノウハウが残らない。従業員も自社の特徴を説明することすらできない。『こんなダサい会社は嫌やろ』とトヨタのコンサルタントに叱られたんです」

トヨタによって叩き込まれた“カイゼンマインド”は、作業効率化に寄与するだけでなく、より主体性ある働き方の実現へとOneを導いた。完全週休2日制や、品目ごとに部門長を設けて大きな裁量を与えるリーダーフォロワー制の導入はその好例。自ら考え、結果を出し、キャリアアップを思い描ける職場。それは宮野さんが就農当時から感じていた、農業法人全般に欠けていた面白さでもあった。

いつの頃から名乗り始めたのだろうか、宮野さんの名刺に刷られた「農業家」という肩書には、既存の農家の枠組みにとらわれない存在であろうとする気概が見て取れる。Oneの傑出した商品ブランディングにも、宮野さんのそうした姿勢がよくあらわれている。

ブランドのクリエイティブを手がけるのは、OneクリエイティブチームのMCO(ミラークリエイティブオフィス)と松澤桂(かつら)氏。「ただかっこいいのではなく、そこに至る背景を言語化できるのでデザインに説得力があるんです」と宮野さん。Oneのルーツとなる先代の屋号・久市(きゅういち)を冠した自社ブランド米「金澤・才田産米 宮野久市」は、2017年に金沢ADC(アートディレクターズクラブ)賞のグランプリを見事獲得した。

今年3月にリリースした稲作キット「おうちデ稲作」も、クリエイティブチームとの掛け合いから生まれた商品だ。従来から一部の学校では教育の一環として稲作体験が行われてきたが、協力農家の高齢化によりその継続はより困難な状況になっている。そうした課題をもとに水平思考的なアイデアで生み出されたのが、学校や自宅で手軽に米を栽培できるこの体験キットというわけだ。

「農(たがや)すことは、生きること。」。この企業コピーには、Oneが私たちの生活の根幹にコミットするのだという強い覚悟が示されている。そして人間の営みに必要不可欠な存在であるからこそ、時代の流れには敏感でなければならないと宮野さんは考える。

「実は、れんこんの水掘り作業を省力化するために新たなマシンを開発中なんです。農業人口が減る未来を見据えて、いま何ができるか。将来的に起こり得る課題に対して、僕らはよりイノベーティブなやり方で解決案を提示したい。要はいままでの常識を覆していきたいんです。『お前らは農家らしくないな』と言われたら、それは僕らにとって最高の褒め言葉というわけです」


■農事組合法人 One
住所/石川県金沢市才田町は68
電話番号/076-255-1581
公式サイト/https://www.one2013.com/

※掲載されている情報は、2025年7月3日以前に取材した内容です。時間の経過により実際と異なる場合があります。

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