【イラストレーター・中村佑介さんインタビュー】金沢21世紀美術館で5年ぶりに開催『中村佑介展2026 in 金沢』
『謎解きはディナーのあとで』(著:東川篤哉)や、『夜は短し歩けよ乙女』(著:森見登美彦)などの小説の装画をはじめ、ロックバンド『ASIAN KUNG-FU GENERATION(通称:アジカン)』のCDジャケット、教科書『高校生の音楽』の表紙絵など、幅広いジャンルでイラスト制作を担当している中村佑介さん。画集の累計発行部数は24万部超と異例のヒットを記録しており、まさに、日本を代表するイラストレーターのおひとりです。
去る4月24日(金)、開会式&サイン会を翌日に控えた中村さんが一足先に来場されるとあって、テレビ局や新聞社と共にメディア枠としてインタビュー撮影にお邪魔しました。
まず会場を1周……と思ったのですが、とにかく展示量がすごい! 書籍の装画、CDのジャケット、オリジナルリメイクなどの原画や下絵、グッズなどがぎっしり。700点以上の作品が展示されています。
そして、どの作品も描き込みの量がすごい!特に「浅田飴」の缶用イラストの原画は、直径約8cmに縮小されているのがもったいないくらいの細密さ。全部のイラストをじっくり見始めると、1日では回りきれないかもしれません……。
展示会の出口に物販コーナーがあるのですが、同行者は浅田飴を全4種類購入。ガチャガチャの缶バッジ(300円/1回)や、金沢会場限定のキーホルダー、新作のマグカップに今年3月に発売されたばかりの最新画集『READ』など、楽しく買いまわっているうちに取材の順番が。さっきまで超絶技巧な原画を存分に拝見していたため、興奮冷めやらぬままインタビューへ突入しました。

ー どのイラストもすごく細かく描き込みされていて驚きました! 1つの作品を制作するのに、どのくらいの時間がかかるものなんですか?
中村佑介さん(以下中村さん):作品1枚あたり100時間くらいなので、1日のほとんど全てです。ごはん食べて、ワンちゃんの散歩をして、寝る以外は、ほとんど絵に費やしていています。集中して描く日は12〜15時間は描くから、1カ月に1枚、挿絵などを含めると1年で12〜15枚くらいの制作ペースです。昔は1カ月に2~3作品くらいのペースで、「これでいいや」と思って出していたところもあるのですが、30歳超えたあたりから「ちゃんと考えて描かないと続けられないだろうな」って思うようになってきて。

ー 中村さんほどの方でも、そんな心配をされるんですか?
中村さん:皆さんも10~20代あたりにはあんなに応援してたのに、いつの間にか関心がなくなってしまっていたアーティストっていませんか? 若い頃って、作品だけでなく、その人の同世代ならではの可能性や肉体的魅力みたいなものも無意識で加点して応援してることが多いと思うんです。でも、自分が30歳前後で仕事や生活などライフステージが変わるタイミングで、相手に対して一旦そのあたりが冷静にリセットされるんだと思っています。アーティストやクリエーターで、そこに気づかなかった人は消えていってしまうんじゃないかと考えています。
その時に僕は「1回0になったんだし、だったらもっと頑張んないと」って、倍くらいの時間をかけて描くようになりました。人生100年時代って言われますから、この先のほうがイラストレーターとして長いんですよね。今25周年で48歳、25年後は73歳。絶対まだ描いてそう……恐ろしい、向き合いたくない(笑)

ー描かれている女性が本当に可愛らしくて綺麗で、嫌らしさが全くないのが不思議です。魅力的に描くコツを教えてください。
中村さん:男性目線の女性の見方をなるべく入れないことは心掛けています。男性本意の女性像や、女性本意の男性像に寄りすぎると、フラットな目線の商業イラストの世界では反感を持たれてしまうことが多いです。だからなるべく僕が描く場合は女性を場面の意味なく必要以上に肌を露出させることはないし、嫌悪感がわかないよう気をつけています。
あとは、ウチは母が元・服飾デザイナーで、子どもの頃によく仕事の話を聞く機会が多くて。時代もありますが、母は当時よく会社で悔しい思いをしていたそうです。女性が男性と同じ仕事、同じ役職をしていても不当な扱いを受けることも少なくなかった。当時よくそんな話を聞いていました。だから、僕は母や祖母が不快感を感じない絵を描きたいなぁと漠然と思っています。あとはあとは、僕の描く女性が笑いかけてこないからじゃないですかね。

ーそうなんです! なぜなんだろう、って気になってました。
中村さん:例えば僕はぽんちゃん(愛犬のお名前)の散歩しているときって、相手も犬の散歩中なら初対面の人にも挨拶します。そんな時、女性だと笑顔でこちらに聞こえるように挨拶を返して下さることが多く、男性だとムスッとして挨拶を返さないことが多いことに気付きました。直属の上司・だったら100歩譲って納得できるかもだけど、その人は僕の何者でもないじゃないですか。あと、僕1人だと会わないのに、ワンちゃん連れで散歩するようになってから「ぶつかりおじさん」に会うようになりました。ネットの都市伝説かと思っていましたが混雑した都会じゃなくても割とどこにでも本当にいることに驚きました。母の当時の仕事の話や、若い作家から聞くギャラリーストーカーの話など、世の中にある無意識の男性・女性の不公平性を感じることが多いんです。
そんな男性達の無表情が良しとされているの社会なのだから、僕の描く女性像だって同じ顔していても良いはずだし、それが自然に見える社会、違いますね、いつかうっすらお互い笑顔になれる社会になれば良いなと願っています。
でもなかなかそういうことって社会生活していると言えないし出来ないですよね。朝いちで「部長機嫌悪いんですか?」という質問とか、取引相手に「(別に…)」って態度も難しい。でも、僕は絵で表現ができる。仕事で「笑顔にしてください」って言われることもありますが、場面的な意味がない場合は理由をご説明してお断りします。そのために僕はフリーランスなんですよね。納得できないなら誰の意見にも従わなくて良い。生意気にうつって仕事を失うかもしれませんけど、もし仕事がなくなったら、個人で原画を販売して生きていきます。

ー AIなどの技術の進歩が凄まじいですが、これからイラストレーターを目指す人へのアドバイスをお願いします。
中村さん:なるべく人間としてのほころびを隠さないようにしたほうがいいと思います。全体主義的な上手くて綺麗なものはAIは得意ですから、それが蔓延すると、逆に個人特有のほころびみたいなのがどんどん世の中に面白く受け取られていく時代になると思います。例えば「手書き」はアナログ画材でしか再現できないタッチや不規則性、また原画が存在するという有限性でアドバンテージが高くなるだろうし、他にもライブイベントをしたり、展覧会をしたり、人間にしかできないこともやっていきたいですね。
なぜなら、人間は機械やプログラム自体を応援しないから。便利だから使っているだけで、ビル・ゲイツを推し活する人はいても、Windows自体を推し活までする人ってなかなかいないじゃないですか。やっぱり人間は人間を応援したい。どんどん自分の人間性を出していっていたほうが良いんじゃないかなと思います。「上手くやろう」「よく見られよう」という部分を減らすというか。メイキング映像とか、その人の性格とか。できることならYouTubeやポッドキャスト、SNSなど他媒体でも、自分の人間性を知ってもらうことはより重要になってくるんじゃないかなと思います。


ー 金沢の展覧会に来られる方へメッセージをお願いします。
中村さん:僕の絵が好きな方は何も言わなくても楽しんでもらえると思いますが、同行者の方でも、損したとは絶対に思わない価格と分量ですので、安心して連れて来られてください。「この人、もう亡くなってる作家?」ってくらいの大量展示ですから(笑)けどこれからも生きて頑張って描いていきます。

■「中村佑介展2026 in 金沢」のイベント紹介記事はこちら
■中村佑介展2026 in 金沢
期間|2026年4月25日(土)〜5月23日(土)
時間|10:00〜18:00(入場は17:30まで)
休館|期間中無休
場所|金沢21世紀美術館 市民ギャラリーB〔B1F〕(石川県金沢市広坂1-2-1)
料金|
◯一般・大学生:1,600円/グッズ付1,900円
◯中・高校生:1,000円/グッズ付1,300円
◯小学生:500円/グッズ付800円
※購入の詳細は公式サイトをご確認ください。
※掲載されている情報は、時間の経過により実際と異なる場合があります。(公開日:)











