
【編集長・佐々木の美味探訪-4-】伝説のリストランテN36.5から巣立ったイタリアンシェフ達が金沢を盛り上げる!


佐々木
こんにちは、金沢日和編集部・編集長の佐々木です。
この春めでたく株式会社金沢日和に新人くんが入社。わーい!と全力で喜ぶ古参メンバー。「ボス、歓迎会しましょう!」ということで、新店マニアで裏番長なスタッフおすすめの『グッフォ』さんにお邪魔。料理が運ばれるたびに「きれーい」「おいしいー」とおよそ編集者とは思えない語彙力で感激しつつ堪能する私たち。いただきながら「N36.5の味思い出すわー」と思っていたら、「N36.5出身のシェフ木下さんとフロアの硎野(とぎの)さんのお店です」と裏番長に耳打ちされました。
そういえば硎野さんだ!そうだ!N36.5で抜群に心地よいサービスを提供して下さっていたあの方だ!と記憶が蘇る私。残念ながら、常連ですと胸を張って言えるほどにはお邪魔できていなかったので、「ですよね、以前お会いしましたよねぇ」と言ってうふふ、えへへとご挨拶したところ、硎野さんからは「よくお越しいただいていましたよね。その節もありがとうございました」と人として格の違いが垣間見える対応をいただきました。
さて、そんな幸せなひと時を過ごした数日後。裏番長の元にSUGIYAMAの杉山シェフから連絡が来ました。「グッフォ行きました?僕、N36.5の後輩なので、応援したくて仕方ないんですよ。『ボッテガ ディ タカマッツォ』の髙嶋さんも、同じ気持ちです!」と。これは何かの縁だなと思い、とりあえず杉山シェフのところにお邪魔してその思いを伺いました。
「N36.5の先輩たちが金沢のイタリアンのシーンを賑わせることにワクワクしてるんです」。N36.5の初期メンバーで舟山イズムを一番継承しているグッフォの木下さんの料理、そして硎野さんのサービスによる食の楽しみを早く知ってもらいたいとのこと。
N36.5の卒業生が活躍する、今のイタリアンーー。面白いな。久しぶりにシェフの皆さんのお声を聞かせていただきたいな、と思った私は伝説の総料理長・舟山さんにも応援コメントをいただこうとアポを取ったのでした。
■ N36.5から巣立った皆さん
左からタカマッツォ髙嶋さん、ターボロ デル グッフォ木下さん、硎野さん、リストランテSUGIYAMA杉山さん
■N36.5の伝説の卒業生について総料理長・舟山さんにお話を聞く
さて、先ほどから連呼しているN36.5ですが、若い世代の中には、もしかしたら知らない方もいらっしゃるかもしれないので、念のためにご説明しますと。国際ホテルのメインダイニングとして1996年にオープンした『リストランテN36.5』は金沢イタリアンに新しい風を吹き込みました。当時イタリアンを標榜するレストランの中で、本格的な料理を出すところはごくごくわずか。そして300名を収容する規模で「リストランテ」を謳うイタリアンは当時なかったと記憶しています。優雅で、贅沢な空間。料理、サービス、空間、すべてが調和し、洗練されていました。
「ミラノ風カツレツを出したら“薄い!”、“ウスターソースは?”と怒られたり、ラザニアを出したら“パスタを出せ”と叱られたり。そりゃもう、本物を曲げるわけにはいかないからお客様とも真剣勝負でしたよ。」
N36.5総料理長・現在は六角堂 香林坊せせらぎ店 料理長兼店長
⭕️舟山さん
と笑う人こそが、シーンを作った立役者の料理長・舟山シェフです。彼の背中を、数多の料理人が追いかけ、時に折れ、また立ち上がっていったのです。「今日は怒ってないの?」とお客に尋ねられるほど、怒号が飛ぶことも珍しくなかったそうです。料理が熱い、冷たいに始まり、調理の仕方、挨拶、立ち居振る舞い、皿の温度、音の扱い。すべてが「舟山クオリティ」でなければ叱責されたというエピソードも残っています。
舟山シェフに真偽をお聞きすると、ちょっと懐かしそうな顔をして「今ではもう優しい、優しい」とだけおっしゃってニヤリと笑顔を見せてくださいました。グッフォのオープンに、『ボッテガ ディ タカマッツォ』やSUGIYAMAの活躍に、コメントを寄せてほしいとお願いすると「自分の信じた道を行け、結果はおのずとついてくる。結果を見てまた己の信ずるところを見つめて、また進め」とのことです。なんというか、料理の道一本、『リストランテ サバティーニ 青山』の副料理長を務め、日本のイタリアン文化の礎を築き、成熟に貢献し、今なお一心に料理と向き合っておられる方の言葉の重みに感動します。
「料理は技術じゃない。素材に正直であること。心が味になる。」
「厨房とホールは分かれていない。全員が“お客様を喜ばせる”ためのチームです。」
この哲学に、何人もの才能が目覚めたのです。今も舟山シェフは「六角堂 香林坊せせらぎ通り店」で現場に立ち、広い視野に立って”金沢で料理を出すこと”を伝えています。
住所/石川県金沢市香林坊2-1-1
クラソ・プレイス香林坊G階
TEL/076-222-6109
営/ランチ11:30~15:00(L.O.14:00)
ディナー
平日17:30~22:00(L.O.20:30)
土日祝 17:00~22:00(L.O.20:30)
休/元旦・臨時休業
席/18席
P/なし
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■続いて、 Bottega di Takamazzo(ボッテガ ディ タカマッツォ)髙嶋さんにお話を伺う
Bottega di Takamazzo(ボッテガ ディ タカマッツォ)
⭕️髙嶋シェフ
そして、イタリアンとは、血肉の通う対話の料理である——私にそう教えてくれるのが、犀川沿い、新橋すぐそばの金沢を代表するイタリアンの名店『ボッテガ ディ タカマッツォ』。料理を出すタイミング、分量、温度、構成すべてが「食べる人」を想像した上で設計されているのが髙嶋シェフの料理。「これこれ〜」と言いたくなる品々が出てくるのでどんどん嬉しくなります。伝統に敬意を払いつくられる味わいは衒いがなく、明快で、“おいしい”のど真ん中を突くよう。鮮度抜群の素材が髙嶋シェフの腕によって、この上なく生き生きと躍動し出す、というのが私の感想ですが皆さんはいかがでしょう。
どうやら舟山シェフのもとでも“自由人”だった髙嶋シェフ。舟山シェフは「1言って10わかる人もいれば、100言っても1しかわからない人もいる。何にも言わなくてもやれる人もいる」とおっしゃっていたのですが、髙嶋さんは3番目の方な気がします。ご自分でも「怒られた記憶はあんまりない」と笑っておられました。持ち前の才能はその後、東京広尾の名店『ラ・ビスボッチャ』で開花。金沢に戻ってからは一気にシーンの顔役になったのは皆さん周知のところかと思います。
舟山さんが訪れると必ず頼む、という一品を見せてくださいました。ズッキーニの花のフリット、モッツァレラとアンチョビの溶け合い、夏の訪れとともに恋しくなるトマトソース。続いて出していただいた羊のカチャトーラ漁師風も骨太な一皿も、香り、火入れ共に抜群、絶品。素材の魅力をストレートに届ける潔さと、料理のバックボーンをしっかり伝える味わいです。
『ターボロ デル グッフォ』については、「N36.5の味を一番忠実に受け継いでる存在。共に厨房に立った先輩が金沢に新しいイタリアンを開くのは楽しみです。個人店はホテルレストランとまったく違うところがある。その違いを楽しんでほしい」とエールを送ります。髙嶋シェフは今や、金沢イタリアンの“兄貴分”。枝を広げる金沢イタリアンの幹ともいうべき存在として、後進を見守っておられます。この伸び伸びと育ちゆく枝のお話も非常に興味深いのです。そちらもまた別の機会にご紹介できるといいなと思います。
■Bottega di Takamazzo(ボッテガ ディ タカマッツォ)
住所/石川県金沢市片町2-32-10
TEL/076-225-8676
営業時間/11:30~14:00、18:00~22:00
定休日/日曜、第2月曜
※定休日明けのランチはお休み
駐車場/なし
【予算】
・ランチ2,000円〜、ディナー8,000円〜
■公式サイトはこちら
■ リストランテSUGIYAMAの杉山さんの思いとは
リストランテSUGIYAMA
⭕️杉山シェフ
今回、声をかけてくださった杉山シェフは、野町交差点のクラシックな建物の2階にある『リストランテSUGIYAMA』のオーナーシェフ。金沢イタリアンの中でも異彩を放つ存在です。杉山シェフの料理はインスタレーション作品と呼びたくなるほど、美しく、五感が刺激されます。皿に並ぶ素材はすべて意味を持ち、構成は美しいプレゼンテーションで包まれています。簡単にいうと、ある意味、“イタリアンっぽくない”料理です。ですが、食べるとイタリアンらしくストレートに素材の持ち味が生かされていることに気づかされます。意外性のある調理法、サプライズのある構成、しかし本質はどこまでも素材に誠実。それが杉山シェフの真骨頂ではないでしょうか。
杉山シェフが舟山シェフから学んだのは「徹底すること」。熱いうちに出すのは当たり前。その“熱いうち”を実現するために、何百枚も皿を触れないほどの温度に温め続けた若き日の根性が、今も彼の皿に宿っているといいます。「どこに修行に行っても舟山さんの下ほど辛くなかったですし、機を見て敏、が染み付いていたので気がきくと褒められてました」と杉山シェフは笑います。イノベーティブなSUGIYAMAの料理もまた、金沢の食文化に新たな章を加えたと言えるでしょう。
仕上がりは、静かで、鋭くて、美しい。緊張感さえ与えるのに、食べると一気に相合が崩れるような親しみやすさもある。でもちょっとわからないスパイスも感じる料理は杉山さんそのものなのかもしれません。その親しみやすさから滲む、先輩、硎野さんと木下さんへの敬意。「皿洗いからパスタ、メインまですべてを実直に経験してきたのは木下さんしかいないんです。どんなに後輩が増えて言っても驕らず、選ぶらず、いつも柔らかい雰囲気でいてくれて。木下さんがいたから続けられたという方も多いと思います」。だから恩返しがしたいという気持ちが真っ直ぐに伝わってきました。
■Ristorante SUGIYAMA
住所/石川県金沢市野町1−2−43 安藤芳園堂ビル2F
TEL/076-225–3080
営業時間/11:30〜14:30 (L.O.13:30)、18:00~22:00 (L.O.21:00)
定休日/月曜
※祝日の場合は営業、月2回不定休
駐車場/あり
【予算】
・ランチ4,180円〜、ディナー9,775円〜
■ TAVOLO DEL GUFO(ターボロ デル グッフォ)のお二人に聞く、これまでとこれから
TAVOLO DEL GUFO(ターボロ デル グッフォ)
⭕️硎野(とぎの)さん
TAVOLO DEL GUFO(ターボロ デル グッフォ)
⭕️木下シェフ
そして、改めて『ターボロ デル グッフォ』です。N36.5の正統なる後継であることは料理とお三方のお話からもわかりました。懐かしんで訪れるお客様が後を絶たないのはもちろん、多くの方がさっそく常連さんとなっているそうです。これは、ただの“後継”ではなく、あの味と哲学を全身に刻み込み、時を経て、グッフォスタイルとしてスタートしている証左でしょう。
厨房に立つの木下シェフは、高校を卒業してすぐに舟山シェフの門を叩き、ひと皿ずつ、あの現場で叩き込まれたイズムを、10年以上かけて自分の血肉にしてきた方。正真正銘の“舟山チルドレン”です。そしてホールには硎野さん。言わずと知れた、N36.5の黄金期を支えた名ホールマン。「ホテルサービス同様に丁寧にしすぎて、ちょっと違うなと反省することも」と話される語り口の軽妙さ。
カジュアルでありながら、上品で、リラックスできる店内。間合いよく出される料理は「構えずに食べられる贅沢」ってこういうことだよね、という仕上がり。テーブルの間合い、グラスの音、サーブのテンポ、どれも自然体なのに一切の緩みがなく、大人の余裕を感じるレストランです。
肝心のお料理。パスタ3種(アスパラとイベリコ生ハムのオイルスパゲッティーニ、くるみをしのばせたクリームソースのニョッキ、ラザニア)が一気に登場するあたり、N36.5譲りの「パスタの楽しみ」と「同時に仕上げ力」が息づいています。能登豚のヒレ肉ロースト 自家製パンチェッタ巻きは、思わず「もう一口…いや二口」となってしまう魅惑のジューシーさ。
デザートも、クラシックスタイルのパンナコッタやジェラートまで気を抜かず、誠実さと料理にとしての喜びが溢れているようでした。木下シェフが「思う存分腕を振るえるように」と厨房は左利きの木下シェフ専用の空間。最高火力のコンロをはじめ、万全の環境が整っています。
そしてサービス。これはN36.5時代から変わらない、硎野さんの真骨頂。必要なときにすっと現れ、楽しい会話を提供してくれて、料理のおいしさを格上げしてくださる。だけど、決して“やりすぎ”じゃない。その絶妙なバランスは、いい店だったという感想を引き出します。
「N36.5の記憶を持つ人」も、「N36.5を知らない人」も、どちらにも行ってほしい。今の金沢イタリアンを知るうえで、間違いなく押さえておくべき一軒です。
■TAVOLO DEL GUFO(ターボロ デル グッフォ)
住所/石川県金沢市片町2-31−40
TEL/076-254-5261
営業時間/11:30〜14:00、18:00〜22:00
定休日/火曜
※定休日前のディナー、明けのランチはおやすみ
※祝日の場合は営業、その他不定休あり
駐車場/なし
【予算】
・ランチ2,500円〜、ディナー6,600円〜
■Instagramはこちら
■ 取材を終えて/編集長佐々木
N36.5を卒業したという共通点があったとは——取材を通じて知り、驚きました。三者三様のスタイルで、それぞれまったく違う。でもどこか、根っこで通じるものがある。単なるN36.5回帰や礼賛ではなく、「金沢イタリアンを盛り上げたい」という思いが伝わってきました。料理人の情熱にふれて、食の世界の奥深さとワクワクを、改めて感じています。
ぜひ皆さんも、店ごとの個性と熱を体感してみてください。私もこれを機に、またいろんなイタリアンを訪ねたくなりました。
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◎過去の【編集長・佐々木の美味探訪】はこちらをチェック♪
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⭕️1『ハイアット セントリック 金沢』の「世界を旅するチーズアフタヌーンティー」
⭕️2『ホテル金沢』の「ホテル金沢能登牛カレー」
⭕️3『ANAクラウンプラザホテル金沢』の「ガーデンドーム」
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※掲載されている情報は、2025年6月以前に取材した内容です。時間の経過により実際と異なる場合があります。