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【農援ラボ|安井ファーム】ブロッコリーと挑戦心を武器に切り拓く、北陸最大級の複合経営モデル

2024年9月27日(金) | テーマ/エトセトラ

農援ラボ
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北陸の豊かな暮らしを農と食から考えるサイト『農援ラボ』です。 野菜作りにこだわりを持っていたり、珍しい生産方法をされていたりと、北陸で何かと話題の農家さんを紹介します。 北陸の注目農家についてはもっと知りたい方はこちら。【『農援ラボ』をチェックする】

倉庫や選果場などが建ち並ぶ一画から、何やら焦がし醤油のいい匂いが漂う。そこにあるのは焼きとうもろこしの屋台。すぐ後ろの「花蕾(からい)屋」と名付けられた直売所を覗くと、とうもろこしやぶどうといった旬の農作物が小綺麗に陳列されていた。年間9ヵ月の出荷体制を整えているというブロッコリーは、あいにく育苗中。きっと9月には棚台に山盛りのブロッコリーが並ぶことになるのだろう。

ここは石川県白山市の安井ファーム。ブロッコリーの作付面積は県内の3割を占め、他にも水稲や大豆、キャベツや玉ねぎといった野菜から果樹まで17種ほどの農作物を生産している。

そうした屋台骨の事業とともに目を引くのは、既存の枠にとどまらない数々のユニークな取り組みだ。花蕾屋もそのひとつで、社員の発案により生まれたものだという。他にも干芋づくりや、ブロッコリーの魅力を世に広めるための広報活動も社員の発案。SNSに投稿したレシピがバズり、『日本一バズる農家の健康ブロッコリーレシピ』なる本まで出版してしまったというから、その自由度たるや並の農家の比ではない。

「自分からあれこれ社員に言うことはないです。でも日常会話から、彼らが何に興味を持っているかはわかるじゃないですか。適地適作じゃないけど、好きなものをやらせたほうが絶対に伸びる。だから『こんな形ならできるんじゃない?』と根回しして、『できるかもな』と彼らに思わせるように仕向けてはいますね」

 取り組みの裏側をそう明かすのは代表の安井善成さん。この挑戦を重視する姿勢に、安井ファームらしさを紐解く鍵があるように思えた。

米農家の長男として生まれた安井さん。就農当時、農閑期は給料も出ず、アルバイトなしでは生活できない状況だった。そうした現状を打開すべく、米作りにこだわる父親の反対を押し切る形で、安井さんは米と園芸作物の複合経営を画策。不慣れながら施設栽培から露地栽培まで試行錯誤を続け、たまたまたどり着いたのが現在の主力となっているブロッコリーだった。

ブロッコリーはスーパーフードと呼ばれるほど栄養価の高い野菜。かつては食卓に並ぶのも珍しい存在だったが、近年は国内消費量が著しく増加し、2026年には指定野菜(消費量が多く、安定的な供給の必要性を国が認めた野菜)への追加が決定されるなど、今や国民的野菜としての地位を築いている。

「先見の明があるねとよく言われるんやけど、当時は全くそんな気配はなくてね」と笑う安井さん。2003年に20aから始めたブロッコリー栽培は見事に成果を上げ、翌年には安井さんが会社を引き継ぎ、安井ファームは本格的に複合経営へと舵を切ることとなった。

目標は100haのブロッコリー畑。いかにも大風呂敷を広げたように思えるが、安井さんが大規模農業にこだわるのは、過去のある経験が影響しているという。

「就農したとき、僕の友人も一緒に父親の下で米作りをしてくれていたんです。でも結局数年で辞めてしまって。農業って、同じ面積でやり続ける限り収量はそう増えないし、給料も変わらない。僕は家業だから仕方ないという気持ちもあるけど、彼の立場からしたら成長のない会社は不安ですよね」

それは稲作をブロッコリーに置き換えても同じこと。そもそもブロッコリーは差別化が難しい野菜。産地や生産者で値付けが大きく変わるというものではなく、相場の存在は絶対的だ。ましてや安井ファームの取引先は量販。「1株の価値を上げるよりも、1円でも安く、より多くのブロッコリーを作る」、すなわち農場の大規模化こそが企業を成長に導く正攻法なのであった。

現在のブロッコリー畑は94ha。20年前に掲げた目標が間近に迫る中、安井さんの視線の先には福島県の双葉町があった。原発事故による避難指示区域は解除され、復興再生計画が進められている同町。長期間の立ち退きにより農地は手つかずのまま荒廃しているような状況だが、地域の農地は集約されており利用価値は高いと安井さんは考えたのだ。

「ひとまず今年は70aの農地を借りるんやけど、とにかく何もない。事務所はおろか電気も水道もない状況。こないだ耕起したら、翌朝にミミズ目当てのイノシシに荒らされて、罠とか電気柵とかを設置したりして。まあ大変ですよ」

聞くからに苦労は絶えない様子だが、「でもね、めちゃくちゃ楽しいんです」と安井さんは前のめりに話を続けた。

「実際に行ってみたら気持ちいいくらいの大自然で。開放的で、まさにゼロからのスタートという感じ。RPG(ロールプレイングゲーム)でレベルを50まで上げたあと、その経験を持ったままレベル1でやり直しているみたいな、そんな楽しさやね」

未知のリスクを好奇心に置き換える安井さんの冒険家のような気質。安井ファームの挑戦的な歩みは、まさに安井さんの思い描く生き方を体現した結果なのだろう。

■安井ファーム
住所/石川県白山市七郎町15
電話番号/076-255-7494
公式サイト https://www.yasuifarm.net/

※掲載されている情報は、2024年9月27日以前に取材した内容です。時間の経過により実際と異なる場合があります。

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