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【農援ラボ|アクアポートのある現場から③あぐり一石】 地域を守るため、新たな技術で「儲かる農業」へ積極的にシフト

2025年7月18日(金) | テーマ/エトセトラ

農援ラボ
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稲作の重要な工程であるとともに手間のかかりどころでもある水管理。その省力化に貢献するのが北菱電興の水田用自動給水機「アクアポート」だ。上限/下限用のふたつのセンサーで水位を感知し、自動での給止水を実現。電池で駆動し、設置も簡単。あえて機能をシンプルにすることで実用性と低価格を両立させている。
では現場での実感はどのようなものなのか。実際にアクアポートを導入した稲作農家を訪ね、これまで抱えていた課題と導入のきっかけ、導入前後の農作業の変化や今後の展望などを伺った。


石川県白山市、水田に囲まれた福新町(ふくしんまち)の集落を訪ねると、先に到着していた編集者と談笑する二人の男性の姿があった。株式会社あぐり一石(いっこく)代表の新田義宣(よしのり)さん(写真左)と、専務の東川啓一さん(写真右)である。

社名の「一石」が示唆する通り、同社の基幹作物は米。本社から目と鼻の先にあるライスセンターに案内されると、そこには80石(約8t)の籾を一度に処理できる巨大な乾燥機がずらりと並び、静かに稼働の時を待っていた。

「乾燥時は火を入れているもんで、昔は心配になって夜にわざわざ見に来たりしたもんです。けれどいまはスマホで遠隔操作できますから、楽になりましたよ」と東川さん。同社の機械担当を自負する東川さんは、すぐ脇に鎮座する大きなドローンも自ら操縦するらしい。

あぐり一石の設立は2010年。それ以前、新田さんと東川さんはともに集落営農組織の一員として農業に携わっていた。新田さんは同組織の代表を務めていたが、のちに組織を解消し、新たにあぐり一石を立ち上げた。

集落営農は、個人単位で行われていた農業経営を集落単位で組織化することで、圃場の整備や大型機械の導入、施設の共同利用などを実現する営農形態だ。新田さんの集落では1970年前後から組織化され、長らく地域の農業を下支えしてきたが、メンバーの合議を旨とするその体制はある種のデメリットも抱えていた。

例えば機械の更新は、経営的視点で捉えるならば乗り潰さずにリセールバリューがあるうちに買い替える方が得策だが、すべてのメンバーに都度出資の合意を取り付けるのは容易ではない。株式会社化は、意思決定を迅速にすることで最新鋭の農業機械やシステムを滞りなく導入できるようにするためという思惑があったという。

36haから始まったあぐり一石は、さまざまな事情で手放されることになった近隣の農地を受け入れることで徐々に規模を拡大し、現在は130haほどの圃場を抱えている。限られた人的リソースでやりくりするため鍵を握るのが、農作業の省力化、すなわちスマート農業への適応であった。

冒頭で触れた穀物乾燥機やドローンに加え、自動操舵のトラクターやコンバイン、さらには圃場管理システムまで、同社では既に多くの先端技術を導入・活用している。ではすべての作業から人手が解放されたかといえば、もちろんそう単純な話ではない。

なかでも数カ月にわたって細かな調整が要求される水田の水管理は、重要かつ手間のかかる作業だ。かねて水田用の自動給水機に関心を寄せていた東川さんは、北菱電興の「アクアポート」の実機に初めて触れたとき、まずそのコンパクトさに目が留まったという。

「小ささは正義。大きいと設置自体が手間になるし、植えた苗に干渉してしまっても困る。稲刈りのときに誤って接触するリスクも高くなりますし、どんなに高性能でも小さくなければ実用性に劣るんです」

夕方に給水を開始して早朝に止水に回るというのが東川さんの水管理のルーティン。水田ごとに水持ちの具合が異なったり、水口(みなくち)に取り付けられたパイプのわずかな傾きの差で流量が変化してしまったりと、ひと口に水管理と言ってもその対応はさまざま。東川さんは単独で50枚以上の水田を管理しているため、手作業による水管理では時期によっては一度の見回りで2時間を要してしまうこともあるという。

「それでも僕の管理している田んぼであればまだ手作業で何とかなるんです。田んぼごとの特性も把握していますし、何より早朝から働くことに抵抗もないですから」と東川さん。同社におけるアクアポートの導入の主眼は、若手スタッフの作業負担の軽減にあると言葉を続けた。

「会社として彼らに朝の5時から働くことを強制することはなかなか難しい。それに先ほどの話の通り、水管理というのは経験がものをいうんです。その点、アクアポートは上下限の水位さえ正しく設定しておけば、経験則に頼らずともあとは動作確認さえしておけば問題ないですからね」

若い世代が抱く、「農業は大変」というイメージを払拭するには――。それは新田さんたちが長年腐心している課題だ。あぐり一石は農閑期には週休二日制を導入し、農繁期であっても日曜休みが基本。テクノロジー面だけでなく、制度面も合わせて働きやすい環境を整えることで、未来の農業の担い手を増やしたいと考えている。


かつて同地域に5つ存在していた集落営農組織はすべて解散してしまった。15年前にあぐり一石が目指した経営の合理化による“儲かる農業”へのシフトは、やはり正しい判断だったと言えるだろう。そしていま同社が掲げるのは、地域内にある約300haの農地を最終的にすべて受け入れるという大構想だ。

「本当は作業がしやすい田んぼだけでいいんやけど、そんなこと言わんと不整形だろうと来るもの拒まずでやっていく。そもそもが地域の農業を守りたいという気持ちがあってのことやからね」

不自由なく日本米にありつける社会がほころびを見せるなか、控えめに紡がれた新田さんの言葉はずしりと重い。守るためには何をすべきか。理想と現実の間に潜む最適解を、あぐり一石は追い続けている。

■今回の農家さんが導入したモデルは……


【製品名】アクアポート(AP-001)
製品詳細はこちら
https://www.hokuryodenko.co.jp/aquaport/

【取材協力】
あぐり一石
住所/石川県白山市福新町121
電話番号/076-277-1267 
公式HP https://aguri-ikkoku.com/

※掲載されている情報は、2025年7月18日以前に取材した内容です。時間の経過により実際と異なる場合があります。

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