観光情報サイト 金沢日和

金沢観光/グルメ/イベント|地元編集者のとっておき情報

石川や金沢、加賀、能登のおすすめ情報を地元編集者が地元のトピックスを中心に、へぇ、そうだったのか、とか、これは役にたつ!などの情報をお届けします。

【編集者とらこの金沢アート探訪】国立工芸館で開催中の「喜如嘉の芭蕉布展」、ようやく行けました!

2025年8月20日(水) | テーマ/エトセトラ

展示風景

こんにちは、金沢日和編集部・ちょっぴりベテランとらこです。

この夏、ずっと気になっていたのに足を運べずにいた展覧会がありました。国立工芸館で開催中の「喜如嘉の芭蕉布展」です。芭蕉布とは、沖縄に自生する糸芭蕉の繊維から織られる布。さらりと涼やかで丈夫、かつては王族の衣裳から日常着まで広く用いられた沖縄を代表する織物です。草花や器など身近なものをモチーフにした文様も多く、素朴でありながらどこかモダン。繊維を裂き、績み、染め、織る──いくつもの工程を経てようやく一枚に仕上がる、気の遠くなるような手仕事です。



芭蕉布織物工房の作品
左)《煮綛芭蕉布 裂地「赤地 引下 カキジャー 綾中」》平成
中)《煮綛芭蕉布 裂地「九年母地縞」》平成
右)《煮綛芭蕉布 裂地「黄地 トゥイグワー 引下 綾中一玉」》平成

そんな芭蕉布をテーマにした今回の展覧会には、二つの大きな節目が重なっています。ひとつは、国立工芸館が石川に移転開館してから5周年を迎えるということ。もうそんなに経った?と驚きつつ、東京から金沢へと拠点を移し、工芸の発信拠点がしっかり根づいてきたことに感慨を覚えます。

そしてもうひとつは、「喜如嘉の芭蕉布」が国の重要無形文化財に指定されて50周年という節目。戦後、消えかけた技術を平良敏子さんが復興させ、仲間とともに守り抜いてきた努力が国の文化として正式に認められた出来事です。50年の歳月を経て、今もその技が受け継がれているという事実自体が奇跡のように思えます。

この二つの節目が重なった展覧会を石川・金沢で見られるのは、本当に特別なこと。「もう会期も後半だし…」と迷っていましたが、思い切って立ち寄りました。会場を出たときの私の感想はただひとつ──「やっぱり来てよかった」。


左)国宝桃色地経縞絹芭蕉衣裳〔琉球国王尚家関係資料〕18~19世紀那覇市歴史博物館
右)国宝黄色地経縞枡形文様絣芭蕉衣裳〔琉球国王尚家関係資料〕18~19世紀那覇市歴史博物館
※現在展示終了

展示室に一歩入った瞬間、色とりどりの芭蕉布がずらり。しんと張り詰めた空気感の中、自由におおらかに、はためくような躍動感が感じられます。軽やかで涼やかな布の質感は、目にするだけで体がすっと整うような心地よさがありました。

会場には、年配のご夫婦や着物姿の女性もちらほら。展示に顔を近づけるようにして、模様を一つひとつ確かめている姿に「やっぱりその織り、気になりますよね!」と心で語りかけました。


左)平良敏子 《芭蕉布 帯「波型」》 1970年代 公益財団法人日本伝承染織振興会蔵
右)芭蕉布織物工房 《芭蕉布 帯「藍コーザー アササ」》 平成 芭蕉布織物工房蔵

最初の部屋は「第1章 歴史のなかの芭蕉布と文様の美」。王族が身に纏った豊かな色彩と伝統の絣柄の復元に挑んだ平良敏子が開いた芭蕉布工房の作品が並びます。国宝に指定された王族の着物は、緋色や黄色の地に枡形や菱の文様がびしっと織り込まれ、堂々たる存在感。「沖縄って、こんなに鮮やかで力強い文化を持っていたんだ」と改めて実感します。


芭蕉布織物工房の作品
左)《煮綛芭蕉布 裂地「黄地 ムディー碁盤」》昭和
右)《煮綛芭蕉布 裂地「九年母地 花織」》令和

次の展示室は「第2章 平良敏子の芭蕉布-わざの確立と展開」。戦後、途絶えかけた芭蕉布を守るため、糸芭蕉を育て、糸を績み、染め、織る──すべてを仲間とともに手作業で続けた平良敏子さん。その姿を初めて雑誌で見たときの衝撃は今も忘れられません。「力強くて優しくて、なんて素敵な織物なんだろう。いつか本物を見たい」と憧れた着物が目の前にある感動といったらありません。


展示風景

壁に掲げられた写真には、真剣な眼差しで糸に向き合う平良敏子さん。その横には工房で織り上げられた数々の着物が並びます。《芭蕉布着物「クヮイヤークヮーサー番匠」》の前では自然と足が止まりました。古典を研究しながらも独自の絣模様を生み出し、時代に即した新たな意匠へ挑戦し続けたその姿勢が、芭蕉布をただの伝統工芸ではなく「生きた文化」へと押し上げていったのだと思います。

こうした歩みが評価され、1974年には「喜如嘉の芭蕉布」が国の重要無形文化財に指定され、平良さんは保持者(代表者)として認定されました。2000年には各個認定の保持者ともなり、2022年に101歳で生涯を終えるまで制作と後進の指導に尽力しました。芭蕉布を沖縄で最も知られる織物に育て上げ、その人生を丸ごと捧げた方なのです。


展示風景

最後の展示室「第3章 想いをつなぐ-芭蕉布のみらい」では、喜如嘉の芭蕉布保存会による伝承者養成事業の取り組みが紹介されていました。朱地に絣模様を重ねた着物は古典の力強さを残しつつも、どこかモダンで新鮮。平良さんが挑み続けた精神が、次の世代へとしっかり受け継がれているのを感じました。


展示風景

芭蕉布は、一人の技と、多くの人の手が重なってこそ生まれる布。工房では、昔ながらの模様を大切にしながらも、現代的なデザインやこれまでになかった衣裳にも果敢に挑戦しています。その営みは、伝統を守るだけでなく未来をひらく希望そのもの。文化を復活させ、大切に継承してきた想いの強さに胸を打たれました。


喜如嘉の芭蕉布保存会 《芭蕉布 琉装着物「アキファテ柄」 2013年 文化庁蔵

展示を見終え、ロビーに降り立つと体の奥に心地よい熱が残っていました。
「ずっと気になっていたけど、来てよかった」──その一言に尽きます。

着物好き、織物好きなら、この展覧会は見逃せません。芭蕉布にふれることで、布を通じて土地や人の営みをまとうとはどういうことか、きっと実感できるはず。

まだ間に合います。気になっている方は、このチャンスをお見逃しなく。帰り道のあなたも、きっと私のように「やっぱり来てよかった」と微笑んでいるはずです。


喜如嘉の芭蕉布保存会 《絣模様いろいろ》 平成 芭蕉布織物工房蔵

👉 とらこ的おすすめ
・迷っているならラスト一週間、駆け込んで!
・平良敏子さんの作品を直に見られる貴重な機会!
・着物や織物に関心があるなら、「やっぱり行ってよかった」と思えるはず!

「移転開館5周年記念 重要無形文化財指定50周年記念 喜如嘉の芭蕉布展」概要
会期/〜 8月24日(日)まで
場所/国立工芸館 石川県金沢市出羽町3-2
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間/9:30〜17:30 ※入館は17:00まで。
休館日/月曜
観覧料/一般900円、大学生600円、高校生以下400円、中学生以下、障害者手帳をお持ちの方と付添者1名は無料。
P/あり (近隣文化施設との共用駐車場)

■23日(土)、24日(日)は「ワード&ハンドで島めぐり」を開催!
詳しくはこちら

国立工芸館の詳しい記事はこちら


おすすめ
【2025年7月情報更新】国立工芸館|金沢21世紀美術館から徒歩約6分。金沢観光の新定番の魅力に迫る。

【2025年7月情報更新】国立工芸館|金沢21世紀美術館から徒歩約6分。金沢観光の新定番の魅力に迫る。

金沢観光の新定番として定着した『国立工芸館』。「石川県には素晴らしい施設があるなぁ」と誇りに思う気持ちは県民共通の思いではありますが、実は、地元の人たちからは「なんとなく敷居が高い」「坂の上にあるなんて歩いて行くのが大変そう」「車で行ったらどこに停めたらいいの?」という声も聞かれます。 今回は、「広坂のバス停や21世紀美術館から徒歩でたったの約6分!」 とか、「工芸って難しくない。”かっこいい”、”すごい”を感じてほしい」とか、「工芸とデザインを専門とした唯一の国立美術館でもあるんだよ」などなど、案外知らない『国立工芸館』の魅力について紹介します。 最新のデジタル鑑賞システムや、専門図書を揃えたアートライブラリも設置された同館で、美術館の魅力を探り、週末のおでかけはもちろん、県外の方は金沢旅行の計画にお役立てください。駐車場情報もチェックしてくださいね!

こちらも
【台湾出身編集者kumaの金沢散歩】珍しいお守りが登場する観光スポットの穴場寺院を見つけました!|石川県金沢市『香林寺』

【台湾出身編集者kumaの金沢散歩】珍しいお守りが登場する観光スポットの穴場寺院を見つけました!|石川県金沢市『香林寺』

こんにちは、金沢日和編集部・台湾出身のkumaです。 連載「kumaの金沢散歩」を担当し、日々、様々な発見をして楽しく過ごしています。わたしにとっての新発見もあるけれど、地元の方にとっては金沢の再発見につながることもあるそうです!これからも、魅力あふれるこの土地を一緒に巡り続けられると幸いです。 どうぞよろしくお願いいたします。 金沢にはちょっと変わったお守りが登場するお寺があると聞いて、半信半疑で行ってみたら、想像以上に面白かったです。「デブ封じ」、「推活成就」、「肩凝退散」など、たった4文字に今のトレンドや日常の切実な願いを閉じ込めた、珍しいお守りがたくさんありました。 約70もの寺社が集まっている寺院群『寺町』の近くに位置する『香林寺』は、願掛け寺として知られています。タスキに願いごとを記載し、庭にある自分の十二支像に掛けると、1年以内に願いが叶うと言われているそうです。毎年9月下旬~10月上旬に白い彼岸花の群生が見られることでも有名ですよ。 入り口の門をくぐると、民家らしき建物が目に映りますが、間違いなく香林寺です。玄関近くでお出迎えしてくれるわんちゃんの石像の衣がおしゃれでかわいいので、ぜひ見てみてくださいね。 本堂内には、子どもを思う慈愛に満ちたお地蔵さん「幸福地蔵菩薩」や、1833年(天保4年)に造られた不動明王「開運霊薬不動」の尊像があります。加賀友禅作家で唯一の人間国宝・木村雨山氏が若い頃、『香林寺』に停泊していた折に残された80点ほどの作品も展示しています。 また、能面士・平井杢侃(ひらいもっかん)氏の能面が60点以上飾られており、部屋に踏み込むと圧倒されてしまいそうです。丁寧に仕上げられた能面を一つ一つを間近で見ることができるほか、それぞれの面に込まれた想いや意味の解説が書いてあるので、ぜひ能面の奥深さを堪能しましょう。 そして、今のトレンドや、日常の中にある悩み、叶えたいことなどがお守りになって登場し、その数はなんと40種類ほどあるそうです。「美女転生」、「シワ退散」、「ハゲ封じ」など、目眩がしそうなほど数々の願いを込めたお守りが一斉に並ぶと壮観ですね。推し活に励むわたしは、大人気の「推活成就」を選びました。当日の最後の一点だったそうです。無事買えた運も含めて、これからの推し活もきっと成就すると信じます。大人気の珍しいお守りシリーズは不定期で新作も出るので、ぜひ見に来てくださいね。 本堂拝観後は、お庭巡りに参りましょう。十二支像に掛けられたタスキを眺めながら、願いに満ちた「幸福の道」を3周巡り、願いをこころから伝えてみてはいかがですか。「幸福の道」には、十二支像のほか、羅漢像や沢山の可愛らしいお地蔵様も安置されているので、探してみてくださいね。 お庭の竹林の中には、出世達磨(達磨禅師)がいらっしゃいます。この出世達磨の口の中へ「願い玉」(五個一口)を投げ入れて、五個のうちに一個でも入ると、出世と金運が上がると伝われているそうですよ。こころから願いを込めて、ぜひ挑戦してみましょう。 閑静な『香林寺』は、雨の日は観光スポットの穴場としても知られており、とっておきの傘を広げてお庭巡りを楽しめます。彼岸花が咲く時期には、期間限定の名物「十二支団子」を楽しめる「彼岸花まつり」開催のほか、夜にはライトアップを実施するので、秋にもぜひ行ってほしいです。 ■香林寺 住所/石川県金沢市野町1-3-15 TEL/076-241-3905 拝観料/大人500円、中学生以下400円、団体60名以上400円 参拝時間/9:00~17:00 定休日/無休 駐車場/10台 ※車の出入り口(山門)はそれほど広くはないため、大型車の場合は特にご注意ください。 公式サイトはこちら 公式Instagramはこちら ■担当している海外SNSはコチラ☆ 小紅書(RED)|簡体字中国語(中国) Facebook中国語|繁体字(台湾/香港) Facebook英語

【地元の人気インフルエンサー】フォロワー3.1万人!! 3歳と1歳の子どもを育てる30代夫婦が運営する人気アカウント「富山おでかけ」登場!

『金沢日和』では「石川県や北陸の情報を発信しているインフルエンサーを知りたい」という声に応え、地元イ(続きを読む

2025年12月2日(火)

【地元の人気インフルエンサー】おでかけなしじゃ生きられない! ワーママ&6歳息子の親子インフルエンサー「mika」さん登場!

『金沢日和』では「石川県の情報を発信しているインフルエンサーを知りたい」という声に応え、地元インフル(続きを読む

2025年12月2日(火)

【地元の人気インフルエンサー】デートの行き先に悩む方必見!富山県のデートスポットを紹介する「富山デート」さん登場!

『金沢日和』では「石川県の情報を発信しているインフルエンサーを知りたい」という声に応え、地元インフル(続きを読む

2025年11月26日(水)

【地元の人気インフルエンサー】小学生も楽しめる北陸のお出かけスポットを発信!ママ・パパ・姉妹の4人家族インフルエンサー「りーなん家族」さん登場!

『金沢日和』では「石川県の情報を発信しているインフルエンサーを知りたい」という声に応え、地元インフル(続きを読む

2025年11月26日(水)

【地元の人気インフルエンサー】子どもを満足させられる福井・石川のお得なお出かけスポットを発信!2児を育てるワーママ「ぷに」さん登場!

『金沢日和』では「石川県の情報を発信しているインフルエンサーを知りたい」という声に応え、地元インフル(続きを読む

2025年11月21日(金)

【地元の人気インフルエンサー】大人女子向けに石川の美味しい穴場グルメやカフェ&ランチを厳選して紹介するインフルエンサー「ふう」さん登場!

『金沢日和』では「石川県の情報を発信しているインフルエンサーを知りたい」という声に応え、地元インフル(続きを読む

2025年11月21日(金)

【地元の人気インフルエンサー】子どもの旅育にもぴったり!北陸の自然豊かなお出かけスポットを発信する2児のパパ「りょうぱぱ」さん登場!

『金沢日和』では「石川県の情報を発信しているインフルエンサーを知りたい」という声に応え、地元インフル(続きを読む

2025年11月20日(木)

【地元の人気インフルエンサー】子連れにやさしい石川県のお店・グルメ情報を発信する3児のママ「piyolog」さん登場!

『金沢日和』では「石川県の情報を発信しているインフルエンサーを知りたい」という声に応え、地元インフル(続きを読む

2025年11月20日(木)

【地元の人気インフルエンサー】新潟のグルメ・観光・イベント情報を発信!2児のママでもあるインフルエンサー「あやか」さんが登場!

『金沢日和』では「石川県の情報を発信しているインフルエンサーを知りたい」という声に応え、地元インフル(続きを読む

2025年11月19日(水)

おすすめ情報

能登日和

能登日和 ≫

お仕事日和

お仕事日和 ≫
掲載記事・写真・図表等の無断転載を禁止します。また一部の画像は石川県及び金沢市提供の写真を使用しています。
(C) 2025 金沢の観光やグルメ 金沢日和 kanazawabiyori